優れたアイデアが浮かんでくる場所を、中国では、「三上」と言うそうです。一つは、「馬上」です。馬の手綱を手にしながら、ゆっくり進んでいくときに、『ハッ!』と何かを思いつくのです。二つは、「枕上」です。目覚めてから、起きだすまでの間に、枕に頭を乗せながら、昨晩の熟睡を感謝し、新しい一日への期待が胸に広がって来ます。そんな時に、何かを思いめぐらしていますと、『そうだ!』と思うことがあるのです。三つは、「厠上」です。「厠(かわや)」は、人が生きていく上で、健康であるなら毎日、通う場所です。現代版は水洗トイレですが、用便中にも、人はよく考えるのです。その時、『ウン、そうか!』と、何かに気づくのでしょうか。
また、同じく、好いアイデアが生まれるときを、同じく中国では、「三中」といいます。一つは、「無我夢中」の中にいる時です。二つは、「散歩中」です。三つは、「入浴中」です。散歩をしていたり、入浴をしているときにも、好い考えが思いつくたことがありました。とくに入浴中に、何か思いついて、メモの用意がないので、曇ったガラスに描いてみたことがあったのを思い出します。「無我夢中」というのは、我を忘れて何かに熱中している時ですが、ある人にとっては、アイデアが思い浮かぶこともあるのでしょうか。
このように、「三・・・」という表現は、よくあるのですが、私の知り合いが「講演」をするときに、《three points》にこだわるのです。聴取者が、記憶にとどめるためにも、筆記するにもとても好いテクニックだと思います。何もかもが三つにまとめきれるならいいのですが、そうもいかない場合もあるのではないでしょうか。『ちょっと無理があるかな?』と思ってみたりします。さて、ついでと言っては申し訳ないのですが、もう一つの「三・・・」をご紹介したいと思います。
こちらに来まして、出会った人たちの中に、大学で教えている方が多かったのです。天津で一年過ごしてから、こちらに越したばかりの私たちを訪ねてくださった方も、大学の教師でした。この方の友人に、『私の学校で日本語を教えてくれませんか?』と言われたのです。躊躇したのですが、こんなに素晴らしい機会はありませんので、『はい。喜んでさせて頂きます!』と返事をしました。それ以来、「外教」という職名をいただいて、教壇に立たせていただいております。多分、「外人教師」という略称だと思いますが。とくに「日本語作文」を担当してきたのです。この作文が上達する上で、「三多」が大切だと言われるのです。
一つは、「看多 kanduo」です。《多く読むこと》です。好い文章、好い作品に触れることによって、作文能力が長足に進歩していくのです。二つは、「做多 zuoduo」です。この「做」は、英語ですと”do”でしょうか、「する」、「つくる」、「書く」といった時に使う動詞です。ですから、《多く書くこと》が、作文を上達させるのです。三つは、「商量多 shangliangduo」です。この「商量」は、「相談する」という意味の言葉です。人にという意味だけのことではなく、「推敲(すいこう)」とか「吟味(ぎんみ)」のことです。こういったことを地道に積み重ねると、好い作文が書き上げられるのです。明日、この「作文(中国では〈写作〉といいます)」の期末テストが行われます。試験問題と解答用紙の印刷が上がっています。さて、学生のみなさんは、どんな文章を書いてくれることでしょうか。この一年を思い返しながら、明日のことを思っている、午後四時前です。まだまだ夏の日がカンカンとバス通りに照りつけております。
(写真の花は、「コケスミレ」です)