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歌人の正岡子規が、門人や友人と結成した、「アララギ」は、一時期の日本の短歌界で、中心的な同人会でした。その会に属し、指導的な立場にいたのが、医師で歌人の斉藤茂吉でした。その茂吉に、次のような話が残さされています。
1924年月、42歳で、医学留学先のドイツのミュンヘンにいた歌人斎藤茂吉が、次の短歌を詠んでいます。「夕ひとり日本飯くふ」の詞(ことば)書きを添えて、次の歌を詠んでいます。
イタリアの米を炊(かし)ぎてひとり食ふこのたそがれの塩のいろはや
茂吉は四十代でしたが、六十を過ぎて、天津の語学学校に留学した家内と私は、学友と一緒に、市立博物館に見学に行き、入場票を買うために、「学生証」を提示したのです。顔を見て、学生としては老成しているのを観て、不思議な顔をしたり、ニヤニヤしていたのです。でも、歴とした「老留学生」でしたので、学割で入場できました。
茂吉は、連日のイタリアンの洋食の連続で、日本人の下の彼にとっては、もう飽きていたのです。やっと米を入手した茂吉は、
噛(か)みあてし砂さびしくぞおもふ
と続けて詠んだのです。「砂を噛むような』食感だったのでしょう、さっそく自分で研いで炊いたお米も、慣れ親しんだ日本米とは違っていて、がっかりだったのでしょう。私たちの留学体験も、東アジア人として共通点がありながらも、パサパサとしたり、ポロポロしたりした米の食感でしたが、米もおかずの感じで、中華菜と一緒に食べると、とても美味しかったのです。でも米だけでは、茂吉と同じでした。
ある時、街の中を歩いていたら、食料品の店に、「秋田小町」と印字された米袋が売られていました。黒竜江省で作られた物で、買って炊いた味は、日本のものと遜色ありませんでした。時々10kgの米袋をかついで、差し入れしてくれる姉妹がいて、米を買うことがなかったのですが、「米の飯(めし)」はやはり美味しいよりも、もっと感動的で、《うまい》は、茂吉も私も同じでした。
こんな歌があるのをご存知でしょうか。大澤敦史の作詞作曲の「日本の米は世界一」があります。
Everybody eat 牛丼 Everybody eat カツ丼
Do you wanna eat まぐろ丼? 親子丼 いくら丼
Everybody eat 天丼 Everybody eat 豚丼
Do you wanna eat 中華丼? チャーシュー丼 すき焼き丼
刺身定食 食!食! 唐揚げ定食 食!食!
焼き鮭定食 食!食! さんまの塩焼き定食
餃子定食 食!食! 焼肉定食 食!食!
いつもいつでも 食卓支える 主食!主食!主食は
日本の米 We want 米 至宝の愛
真っ白に炊きたてごはんが輝く 白米が美味いんじゃない?
日本の米 君の元へ Keep on the rice
この国 日本の食を支えてる 誇れよ我らの米を
日本の米は世界一
コシヒカリ キヌヒカリ みつひかり イクヒカリ ヒノヒカリ
ヤマヒカリ なすひかり ナツヒカリ ユメヒカリ ゆきひかり
加賀ひかり フクヒカリ ちゅらひかり 能登ひかり さきひかり
ササニシキ チヨニシキ アキニシキ みのにしき あきたこまち
鯖味噌定食 食!食! 天ぷら定食 食!食!
スタミナ定食 食!食! カツオのたたき定食
ステーキ定食 食!食! トンカツ定食 食!食!
食べる者皆 あまねく讃えよ 米を!米を!米を!米を!
米を 米米を
日本の米 We gatta 米 未曾有の愛
おかずのチョイスが無限に広がる 食べない手は無いんじゃない?
日本の米 いつもここへ 希望のRice
あったかいごはんを無心でかきこんで 日本の米は世界一
日本の米 We want 米 至宝の愛
真っ白に炊きたてごはんが輝く 白米が美味いんじゃない?
日本の米 君の元へ Keep on the rice
この国 日本の食を支えてる 誇れよ我らの米を
日本の米は世界一
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「米讃歌」、日本の風土の中で作り上げられた、しかも《八十八》回も手をかけてできあがる米が、英語を加えてほめ歌っているのです。どんなに尊いかを、食べ続けて来た私たちは、誰もが認めるのでしょう。
田圃で育った稲の穂を積んで、穂を爪で潰したことが、子どもの頃にありました。まだ固まるまで時があって、真っ白い米液がこぼれて落ちたのです。煮炊きすると柔らかいのに、炊かれるまで籾(もみ)に保護され続けて、固く保存されているのです。
楽しみは まれに魚煮て 兒等(こら)皆が うましうましと いひて食ふ時
橘曙覧(たちばなのあけみ)の詠んだこの歌は、おかずは「うまし」なのでしょうけど、お米がうまいから、そのうまさが、おかずをひきた立てて隠されているのでしょう。そんな食事風景を思い浮かべながら、八月末の今、北関東の田圃の稲を見ますのに、まだ黄金色にはなっていませんが、十分に育って青々としています。鰻丼も、カツ丼も、生卵ご飯も、そのうまさを、米が支えているから、美味しいはずなのです。
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