詫び状

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 以前、一人のお母さんが、わが家に来られて、こんな話をされていました。ご主人は穏やかで、慌てたりしないのだそうです。ところが彼女は、その反対なのだそうで、どうしてもご主人に、厳しく要求をしてしまうのだそうです。ある時、彼女は、ちょっと怒りを、ご主人にぶつけた様です。その様子を見ていた小学生の息子さんに、『怒りを遅くする者は勇士に勝る、んだね!』と言われて、彼女は<ギャフン>とされたのだそうです。

 わが家は、この家族と逆で、家内は、おっとり・のんびり・ゆっくりなのに、私は、せっかちで、慌て者で、性急なのです。彼女は、ほとんど失敗とか怪我をしないのですが、私は、躓いたり、転んだり、ぶつかったりの連続で生きてきました。そう言った私を見聞きしながら、『ほら、見たことないじゃあないの!』とつぶやく様なことは、彼女はしません。

 私が短気して、家内ともめている時、わが家の4人の子どもたちは、『またやってる!』と遠巻きに眺めていて、いつでも家内の味方をしていました。それで、バツが悪くなって、私は<不貞寝(ふてね)>をしたり、車で出掛けてしまうのです。そうやって、何度も何度も子どもたちに助けられて、今があります。今は秋、叙勲の季節なので、《表彰状》を上げなくてはなりませんが、49年連れ添った《糟糠の妻》には《詫び状》を、4人には《感謝状》を上げたい思いでおります。
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 江戸の昔も、そんな夫婦がよくあったのでしょうか、《子は鎹(かすがい)》と言われていました。この《鎹》は、近代建築では使うことが、ほとんどない様です。自分たちの事務所の建設をしていた時に、大きな《鎹》を打ち込んだことがありました。きっちりと打たないと効果が半減してしまうので、なかなか難しいのです。今日日の建築物は、昔の建築にはかないません。ほとんど金属の釘や鎹などは使わずに、耐震装置のきっちり機能する木造建造物を作れたのです。

 天井裏に上るのが、私は好きで、中学の木造校舎や、農家の天井裏に上がって見たことがありますが、木と木を組み合わせるための技術には驚かされました。曲がった自然木に、鑿(のみ)で、《ホゾ穴》を彫り、そこに刻んだ《ホゾ》をはめ込んで、屋根を支えてありました。よく見ますと、何十年も、100年も経つのに、一ミリの狂いも隙間もないのです。コンピューターなどなくとも、伝来の道具を使って、それほど正確に仕事をこなしていたわけです。

 自分の人生を振り返って、どんな構造に仕上がっているのか思い巡らす必要がありそうです。そこかしこに、《ホゾ穴》が彫られたり、《鎹》が打ち込まれてありそうです。昨日は、掛かり付けの町医者に勧められて、MRI検査を大きな病院に行って撮影してもらいました。初めての様な、強い頭痛があったので、念のための検査でした。ドームの中で、ヘッドフォンから流れる曲を打ち消してしまう様に、ガンガンという音を聞かされながら、多くの人のことを思い返していました。みなさん、私の組み立てに必要な方たちだったと思わされ、感謝した時でした。

 
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