今頃

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 先日、チラッとですが、赤トンボが飛ぶのを見ました。厳しい暑さが残っているのに、秋風が吹き始め、茹で栗が食べられるような季節がこようとしています。この季節に、私が一番食べたいのが、「ソフトクリーム」なのです。街中のスーパーの店頭売りのものではありません。八ヶ岳山麓の清里にある、《清泉寮》特製のもの、ジャージー種の牛乳をふんだんに使ったと謳う名物ソフトクリームなのです。

 よく、暑い夏が終わった頃、清里の宿泊施設をお借りして、師や友人たちと二泊三日ほどで、交流会を持ちました。一段落して休憩になると、だれ誘うともなく、みんなの足、いえ口が、清泉寮のソフトクリーム・ショップに向いてしまうのです。それを、ニコニコしながら、頬張っている一葉の写真が残っています。

 もう恩師が亡くなって18年になります。アメリカには、もっと美味しいものがあるのでしょうけど、少年の様に屈託なく、9歳違いの恩師の頬張る姿が、そこに写っているのです。ただ甘いだけではなく、芳醇な香りとか、懐かしさなどが感じられる味なのです。

 こんなことを書いていると、清里に飛んで行きたい気持ちになってしまいました。そのソフトクリームを、一緒に食べた方たちが、ほかにも何人もいます。アラブ人とギリシャ人の血を引く、ニューヨークの学校で教えていた教師で、私たちの婚約式に来てくれて、奨励をしてくれた方も一緒に食べました。上の兄のテニス仲間に、運動不足の解消と交流会に誘って頂き、毎春、毎秋、清里に行きました。彼らも、ソフトクリーム仲間でした。

 そう、わが家の子どもたちも大好きで、よくキャンピングに出掛けては、寄り道をしては食べたものです。札幌に入院して手術を終え、リハビリが終了して、家内の待つ華南の街に帰ろうと、札幌の空港で搭乗待機している折に、美味しそうにソフトクリームを食べていた外国人を見かけたのです。そこで、つられて食べてしまいました。

 あの清里の清泉寮のソフトクリームを食べたことのある私には、やはり札幌空港のそれには物足りなさがあって、美味しいのですが、あの味ではないのが不足感があって仕方がなかったのです。《美味しさ》とは、味だけではなく、時と場所と心に関わる味なのでしょうか。きっと原宿あたりで食べたものの方が美味しいかも知れませんが、宣伝料をもらったわけではないのに、清泉寮製が、やはり美味しいのです。食べたい、今頃です。

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