ことば

.あんなに大きな船を右左に、向きを変えることができるのは,小さな「舵(かじ)」です。通常は,水の中に潜っていて、人の目に触れることはありません。戦艦だろうが、重油タンカーだろうが、舵の向き一つで、進路が変えられるのですから、船乗りは,その《舵の役目》の大きさを熟知しているのです。

子どもの頃、父の机にあった、モールス信号機に、強烈な興味を、私は持ちました。無線で、要件を届けることができると言う機械装置の不思議さに圧倒されてしまったのです。それで無線通信士になろうと思いました。それには,船に乗るのが一番でしたから、船や海にも、果てしなく関心が向けられていました。木製の船の模型のキットを買っては、作ったこともあるほどです。

船の舵と同じ様に、人間の「舌」も大きなことをするのです。私の愛読書に、「舌は小さな器官だが、大きなことを言って誇る。」と書いてあります。そして、「舌は火であり、不義の

世界だ。」とも言っています。さらに、『人は,この舌を正しく制御できないこと』についても触れているのです。そういえば、言葉で失敗する人って、どこの国でも、結構多いのではないでしょうか。

戦後日本の舵取りして、名相と言われた吉田茂総理大臣でさえも、国会・衆議院を、口を突いて出た一つ言葉で、解散しなければならなかったのです。質疑応答の折、西村栄一議員の言葉と態度に怒ったのでしょうが、自席の帰り際に、小声で、『バカヤロー』と言った言葉を、マイクロフォンが拾ってしまって、小声では済まされなくなって、結局、衆議院が解散したのです。1953年のことでした。

『あの一言を、言わなければよかった!』と思っている人は,大勢いらっしゃることでしょう。人間の舌、語りだされる言葉は,実に影響力が大きい様です。東日本新大震災と、原発の事故で、福島から横浜の小学校に転向しなければならなかった少年に、バイキンというあだ名をつけたり、保証金があるのだからと、『お金を持って来い!』と言われ続けた、《いじめ体験》を記した手記が、あの頃問題になっていました。

この子は、不登校を続けていたのですが、こんなことも書いています。『いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた!』と。故郷ではない横浜で、いじめに潰されないで、健気に生きている少年がいたのです。

小学生のいじめに、《大人の不用意な言葉を、家庭やどこかで聞いて、学校でオウムの様に語る》、こう言ったことが背後にありそうです。誰にでも起こりうることを、自分の問題として引き受けられないことが、こう言ったいじめを生みます。

この手の《言葉の暴力》は,どこにでも、限りないくありそうです。《不義の世界》、舌を正しく使える本物の人間に、人は育たなければなりませんね。「言葉は剣(つるぎ)」となることが多々あるのです。

(〈剣〉の様な形のペーパーナイフです)

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