.
.
時、甲子園の高校野球の地方予選の終盤で、どなたも自分や兄弟、知人の母校の対戦結果が気になってしまうことでしょう。この高校野球から、プロの世界に進み、MLBで活躍する選手が多くなって、何やらNPBが、何やら霞んで見えてしまいそうです。
人の会話や書き物に、野球の影響が強烈のようで、猛暑、線上降水帯の発生による集中豪雨、それに台風情報、地震情報が矢継ぎ早なのが、大いに気に掛かります。思いを転換して、野球の世界に目を向けますと、日本人選手のMLBでの活躍に思いが一喜一憂してしまいそうです。
思えば、昭和前期から、職業(プロ)野球が始まった頃の選手で、川上、青田、木下、藤尾、別当など、われわれの子ども時代の選手たちのことが思い出されます。どのスポーツも同じですが、活躍できる選手生命は、やはり短いわけです。すでに三十代になると、“ veteran(ベテラン)”、この用語も昭和のもので、何か遠い時代の響きや匂いがしてきそうです。
登板、降板、続投、継投、ヒット、代打、内野、外野、移籍(今はトレードでしょうか)、空振り、暴投、盗塁、併殺、リリーフ、ナイスプレイなどの野球用語が、一般社会の中でも使われ、新聞記事、ラジオ放送などでも使われ、一般化しているのでしょうか。もともとは、”ball in the field “ と呼ばれていた球技が、”Baseball“ に変わり、それを「野球」と邦訳されたのは、明治27年(1894年)に、一高の学生の中馬庚(ちゅうまんかなえ)によってでした。
相撲なども、昭和的スポーツですが、この野球だって、100年の歴史があって、もう国民的スポーツの翼は、サッカーやラグビーなどにも伸ばされていて、昭和世代中期のbaby boomer のみなさんが、もはや後期高齢者になっておいですから、若者たちの関心は多岐多様になっているのでしょう。
最も注目されているのは、大谷翔平選投手ですが、その体格には、驚かされてしまいます。読売巨人軍で、今でも話題に上りますし、優秀投手賞にその名を残している、沢村栄治投手は、174cmで71kgで、十代の頃の私とほぼ同じほどでしたが、その体格で豪速球や多種の球種を投げていました。
ところが、翔平は、193cmで95kgで、この頃の日本人選手たちの体格を、欧米人の体格に比しても飛び抜けています。栄養価とか食種事情とか野球環境など、比較できないほどに恵まれた時代の子たちなわけです。
悲しいのは、兵士として従軍し、最前線に立たされた時、特技の投球の球を、手榴弾に換えて、敵陣に向かって投げ、その肩を壊し、生きて復員できても、父の世代の名投手。沢村栄治も、その選手生命は終わって、続投もできなかったと言われるのです。惜しくも彼は戦死してしまいました。私が生まれた年に、27歳でした。
戦後80年、思いいたすことは複雑なのですが、バッターボックスに立つ姿、ピッチャープレートに立つ姿の翔平は、平均的な日本人の体格ではありませんが、食糧事情、栄養事情、良質の肉食によるタンパク質の摂取、ビタミン剤、寝具や衣服など、さまざまな面で、体も心もノビノビとしているのは、大きな祝福です。
さらに「態度」の良さが、称賛の的になっている翔平は、野球に夢中だった次兄や甥や長男を思うに、一世代違いの姿を見て、80年と言う年月は、意味深いものを感じます。それでも、昨今の、自然界の荒れ方、世界地域の情勢の危うさ、それらが、この80年の穏やかさを打ち壊そうとしているのは、何か不安を感じさせられてなりません。
アメリカから、明治の日本に持ち込まれた野球で、瞬く間に、一高(東大の前身)倶楽部が大活躍をしていました。1890年(明治23年)に、日本初の国際試合が催され、一高は、白金倶楽部(パウロ大学、現在の明治学院大学)と対戦したのですが、0対6で負けていました。そこに、白銀のインブリーと言う教授(宣教師でした)は、試合観戦に訪れます。グラウンドは門が硬く閉ざされていて入れません。それでインブリーは垣根を乗り越えて入るのです。
その野球の聖域に、不法侵入した者を見つけて、刃物で襲いかかり大怪我を負わせる事件が起こりました。国際問題になりかけますが、インブリー宣教師は、自分の非を認めて謝罪して、一件落着したのです。明治初期、野球を愛する者はまだ殺生沙汰をするほどのサムライ精神を持っていた野蛮な時代だったのです。それに比して、令和の野球人の翔平の紳士ぶりとは対照的だったわけです。
明治150年の令和、この野球人の時代対照こそが、baseball なのでしょう。アメリカの野球フアンを熱狂させるほどのプレーぶり、紳士ぶり、「ナイスプレイ」には、「驚き桃の木、サンショの木」で、驚きであります。記録よりも、30歳の翔平の在り方、活躍ぶりに、微笑んでしまいます。
(”adobe stock” の「ボール」、ウイキペディアの「沢村栄治」です)
.