信仰の道

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 子どもの世界で、わがままだったり、不公平だったり、ずるいと、嫌われてしまいます。戦争前の私たちの国では、「アカ」とか「ヤソ」と揶揄されて嫌われた組織や集団や人がいました。

 私の母は、日本でも最も宗教都市と言われた街で育ったのです。そこで、カナダ人宣教師の伝道の中で、少女期にキリスト信仰に導かれました。その熱心さを知った親戚から、『ヤソは先祖を敬わないから、教会行きをやめろ!』と言われて反対されたのです。それが昂じて、『台湾にでも売ってしまえ!』と言うことで、実の親ではない養父母も、それに同意して、危うく売られそうになります。でも警察に保護され、その難をのがれたそうです。

 「国体」に沿わないと決め込んだ官憲は、共産主義者と基督教徒を迫害したのです。キリスト教会への迫害も酷かったのです。まだ私が若い頃に、静岡草深教会の辻宣道牧師の著された本を読んで、その実態を知らされたことがありました。この方のお父さまは、聖潔運動(ホーリネス)の中で、青森県弘前市で牧師をされておいででした。お母さまは、ホーリネス運動をなさった中田重治のお嬢さまだったのです。ご両親とも、弘前バンドの伝道の中で基督者となっておいでです。

 キリストと国家元首の二者は併立することが叶わず、王として再臨するキリストを信ずる者たちを国賊として、厳しく棄教や転向を迫ったのです。それに屈することなく信仰を堅持しようとした者たちは、監獄に送られ、行動の自由を制限されました。

 戦時下、再臨信仰に立つホーリネス教会は、殊更に官憲の監視のもとにあり、お父さまは、弘前刑務所に収監され、その獄中で亡くなられてしまします。15歳の宣道少年は、お母さまと二人で、リヤカーをひいて亡骸のもらい受けに刑務所に行ったそうです。棺桶の中で硬直した亡父が、道路の段差で揺すられゴツゴツ音をするのを聞きながら、家に戻ったと、記しておいでです。

 15歳で、そんな辛い経験をした少年は、信仰をやめたのでしょうか。いえ、戦後聖書学校に入学し、教師試験に合格して、お父さまと同じ牧師の道を進むのです。刑務所に、夫を奪られたお母さまは、教会の役員の家に、食べ物をてもらいに、宣道少年をつかわすのですが、『国賊の家族にやるものはない!』と断られたそうです。人の弱さを知らされても、彼の献身の思いはゆるぎませんでした。

 熱狂的な信仰が試された時の人の肉の弱さを知らされながら、強固で堅実な「信仰告白」の重要さを、痛切に感じたそうです。信者、しかも役員をしていた者が、国体に反して投獄された牧師を捨てたことは、辛い経験でしたが、人の弱さや冷たさを思い知らされたのでしょう。それは信者だけの問題ではなく、教役者たちも持ちわせていた弱さでもあったのです。獄中の折檻や拷問で信仰を曲げ、転向する人も多くあったようです。誰も、それを責めることができません。

 『イエスは彼に言われた。「わたしが道であり、真理であり、いのちなのです。わたしを通してでなければ、だれひとり父のみもとに来ることはありません。(ヨハネ146節)』

 同じ時期に、ナチスに台頭したドイツでも、福音信仰に立った教会は、存続の危険に迫られていました。ところが、カール・バルトたちの《ドイツ福音主義教会》によって「バルメン宣言」が発せられました。聖書のみことばを掲げ、それに反するどのような国家的な圧力にも屈せず、妥協したり容認しない堅固な聖書信仰の上に立ったのです。暴力を用いずに、信仰の戦いを戦ったのです。

 牙を剥いて襲いかかってくる時に、持ち堪えられる信仰を、私たちはいただくのです。

 『あなたがたは、信仰により、神の御力によって守られており、終わりのときに現されるように用意されている救いをいただくのです。 1ペテロ15節)』

 私たちの教会に、三重県下で、この戦いをし続けてきた群れがあって、そこの牧師のご子息が、礼拝に見えられたことがありました。神の律法に立って、偶像礼拝をせず、国家権力にも屈せず、聖書信仰に立った小さな群れでした。アメリカ人宣教師の伝道によって建てられた教会だったのです。大きな教団に大同団結していく教会の中で、それに吸収されてずに、戦前、戦中にわたって、聖書信仰、福音主義を貫いた群れの牧者の息子さんでした。地方紙で攻撃されても屈しなかったのです。

 信仰の試練の中を通り抜けた群れの強さを、その息子さんの柔和な態度の中に感じたのです。私の母は、寂しい幼児期、少女期をかけぬけて、95歳で召されるまで、信仰を持ち続け、4人の子を信仰に導き、孫たちも、その信仰を継承しているのです。国家権力が暴走すると、人の尊厳を傷つけ、人権を踏み躙るのです。
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