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 「主は地をおおう天蓋の上に住まわれる。地の住民はいなごのようだ。主は天を薄絹のように延べ、これを天幕のように広げて住まわれる。 目を高く上げて、だれがこれらを創造したかを見よ。この方は、その万象を数えて呼び出し、一つ一つ、その名をもって、呼ばれる。この方は精力に満ち、その力は強い。一つももれるものはない。(イザヤ書40章22節、26節)」

 昭和初期に、おもに若い人たちの間で流行った歌がありました。父の青年期でしたから、きっと若かった父も放歌吟声したことがあったのでしょう。国土の狭さに飽き足らない父が、広大な大陸に憧れたのです。そして奉天の地で、父はしばらく過ごしています。

 この歌を、二十代の初めに聞き覚えました。野心満々、現状不満の私には、まさに似合った歌だったのです。

一、俺も行くから君も行け
  狭い日本にゃ住みあいた
  海の彼方にゃ支那がある
  支那にゃ四億の民が待つ

二、俺には父も母もなく
  生れ故郷に家もなし
  馴れに馴れたる山あれど
  別れを惜しむ者もなし

三、嗚呼いたわしの恋人や
  幼き頃の友人(ともびと)も
  何処に住めるや今はたゞ
  夢路に姿辿るのみ

四、昨日は東今日は西
  流れ流れし浮草の
  果しなき野に唯独り
  月を仰いだ草枕

五、国を出る時や玉の肌
  今じゃ槍傷刀傷
  これぞ誠の男児(おのこ)じゃと
  微笑む顔に針の髭(ひげ)

六、長白山の朝風に
  剣をかざして俯し見れば
  北満州の大平野
  俺の住家にゃまだ狭

七、御国(みくに)を出てから十余年
  今じゃ満州の大馬賊
  亜細亜高嶺(あじあたかね)の間から
  繰り出す手下五千人

八、今日の吉林(きつりん)の城外に
  木だまに響くいななきも
  駒の蹄(ひづめ)を忍ばせて
  明日は襲はん奉天

九、長髪清くなびかせば
  風は荒野に砂を捲き
  パット閃(またた)く電光に
  今日得し獲物(えもの)は幾万ぞ

十、繰り出す槍の穂先より
  竜が血を吐く黒竜江
  月は雲間を抜出でて
  ゴビの砂漠を照すなり
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 「大国主義」を掲げて、大陸進出を煽る様な歌であることは事実ですが、狭い国土しか持たない日本が、活路を求めていたことからすると、未開墾の地に鍬を入れようとした思いは理解できそうです。1868年(明治元年)には、砂糖生産の作業のために渡航したハワイ、その後、北米大陸、南米に移民をしようとしていた時代がありました。

 満州の場合は、長野県南部の阿智村などから、災害や凶作などで苦しんでいた当時の農民が、新天地を求めて移住した満蒙開拓団が有名で、それは東亜の五族協和を掲げた、国策だったのです。でも開拓を促したのは「貧しさ」でした。

 六十を過ぎてから出掛け、住んだ天津の外国人公寓(gong yu アパート)の七階の窓から眺めた、大陸の地平線に落ちようとしていた夕陽の大きさと、真っ赤に燃えた様子に、息を呑んで驚かされたのが昨日の様に思い出されてきます。『大陸の太陽と、日本で見る太陽と同じなのだろうか?』と思ってしまうほどでした。

 四十代だったでしょうか、内蒙古に出掛けて、満天の空を見上げて、そこに煌めいていた星は、本当に降る様に感じて、その天然自然の神秘さに、足がすくむ思いで圧倒されてしまいました。そこには美しさや壮大さだけではなく、均衡があったのです。

 偶然に出来上がったにしては、考えられないほどに整えられているではありませんか。大宇宙を想像し、支配している神さまは、ほんの少しの土の中から、美しい色と形状で咲いてる花も、地を這う小虫も造られています。その命の躍動させている力は何でしょうか。どうしてそこにあるのでしょうか。どうして命が芽生え、息をし、輝いているのでしょうか。

 そこには命の付与者と、保持者の計り知れない計画と目的があるに違いありません。歌に鼓舞され、時代の流れに乗って出掛けた父は、そこに留まらず帰国してしまいます。夢に敗れたのでしょうか、別の生き方を見出したのでしょうか。その父と母によって自分が生まれたのです。

 私は、大陸を造り、この地球を造り、太陽や月、大宇宙に瞬く星々を造られた創造者に出会いました。同じその御手で、最高作品として、自分が造られたのを、野心を砕かれた二十代に知ったのです。父が亡くなった同じ六十一になって、大陸の片隅に渡り、十三年を過ごしました。そこには素晴らしい人々との出会いがあって、素敵な時でした。

 そして老いた今、七十年の年月を振り返っております。父や母がいて、兄たちや弟がいて、妻や子や孫がいて、共に友情を交わした友がいて、隣人がいます。それは素晴らしい出会いと交わりの日々でした。そして残された月日に、意味を感じ、戴いた命を、もう少し楽しみたいと願う私でもあります。

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