ローラーブレード

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roller skating

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 私たちが中国に住み始めて四年ほど経った、2010年の秋に、〈流行り言葉〉が、中国中で話題になり、またたく間に世界中に広まっていきました。それが、『我爸爸是李剛(俺の親父は李剛だ)』でした。

 河北省の河北大学の校内で、構内速度制限が5km/hに定められているのに、高級欧州車が猛スピードで走り抜け、校内でローラーブレードを楽しんでいた女子大生をひき逃げして、運転していた学生が校門から出ようとしました。事件を知った学生たちに、一般道に出ようとした寸前で、その学生を取り囲んだのです。その運転手が、とっさに叫んだのが、その言葉でした。

 今日日の日本を騒がせている、『俺の親父は⚫️だ!』に酷似しているのです。親の特権に胡座をかく子どもって、どこの国にもいるのです。その中国では、「富二代」とか、そのひき逃げ事件の男の様な「官二代」が、わが物顔に好き勝手をしている様が揶揄されています。お父さんが政界や官界や財界で偉かったりする子どもを、私たちは〈親の七光〉と言いました。子は偉くもないのに、威勢が良いのです。でも〈偉さ〉って何でしょうか。

 その自動車ひき逃げ事故で、被害にあった一人は重症を負いましたが、もう一人の女子大生は亡くなっていました。二人とも農村から、夢を持って出て来た新入生でした。被害者が貧しい家庭だと知ったのでしょう、加害者の親は、示談に持ち込んだのです。その親は、警察署の幹部で、総資産が日本円に換算して一億二千万円ほどwもありました。公安副局長の通常の給与ではあり得ない資産を持っていたのです。それなのにわずかな額で示談で済ませてしまいます。

 子への処罰も緩いもので済ませてしまう、社会構造は、日本も同じです。社会に大きく貢献しているのは、在野、市井の庶民なのにです。わずかな耕地を耕し、小さなポンポン船で漁をし、野菜や果物を店頭に並べて商いをする人たちです。彼らは忠実に納税をしている人たちなのです。その税から俸給を得て生きている者たちが、勘違いして特権意識で偉ぶっているのが現実の社会です。

 親戚に、先輩に、同郷に、同窓に、知名で有名で著名人がいると、全く関わりがないのに、『✖︎✖︎さんは・・・!』と言ってみたくなりますね。アメリカでは、日本ではそうはいかないのですが、『この近くにワシントン大統領の妹さんがいられそうですね!』と、出身地に押し掛けて聞くと、『そう、その辺に住んでるそうですが。』と答えただけだそうです。彼は彼、彼女は彼女で、特別視を示さない国民性だと聞きました。

 親戚にも、兄弟にも、友人にも、同窓生にも、先輩にも、誰一人、名のある人のいない私など、一度でもよいから言ってみたかったのですが、全くなしの中を生きて来ました。人生に前半は、『マン先生の弟さん!』、人生の後半では『ゴサク先生のお父様!』で生きて来て、今では、『ユリさんのご主人!』とか『ノウくんのお爺さん!』なのですが、まあ〈無名の士〉でいいかで今を生きています。
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 「一切れのかわいたパンがあって、平和であるのは、ごちそうと争いに満ちた家にまさる。 (箴言17章1節)」

 始めの話ですが、ご馳走を食べられる家庭で育った加害者と、貧農の子たちの被害者の悲しい出来事には矛盾がありそうですが、正しい価値観や生命観を学ばない悲劇の方が危険です。名も財もない親の子たちが沢山います。でも、《乾いたパン》で、ローラーブレードで余暇を楽しんで、感謝して生きた方が、人間としては素敵ではないでしょうか。明らかな良心で生きられるからです。

(ローラーブレードとユダヤ人のパンです)

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