暮れになると、必ず演じられる落語に、「芝浜」があります。とても有名で、古今亭志ん生が演じ、その子の馬生も志ん朝も演じています。もう一つ寒くなってきましたので、「厩火事(うまやかじ)」は、どうでしょうか。こんなあらすじです。
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髪結いで、亭主を食べさせているお崎が仲人の家に来る。今度こそ愛想が尽きたので、別れたいという。仲人も、女房だけ働かせ遊んでいる亭主などとはもう別れてしまった方がいいと言い出す。すると、お崎の方は不満で、亭主の肩を持ち始め、のろけまで言い出す始末。
呆れた仲人が、亭主のほんとうの料簡を知るための二つの話をお崎にする。
一つは唐(もろこし=中国)の孔子の話。
孔子の留守中に厩(うまや)が火事になって一番可愛がっていた白馬が焼死した時のこと。帰ってきた孔子は門弟や、家人の体のことを気づかい心配し、白馬のことには一言も触れなっかたという故事。
二つめは、瀬戸物に凝っている麹町のさる屋敷の旦那の話。
集めた品を客に見せた後、女房が瀬戸物をしまおうとして運ぶ途中に階段で転んだ時のこと。旦那は「瀬戸物は大丈夫か」しか言わず、女房に「怪我はなかったか」などとは一言も聞かなかった。以後、女房は里へ帰り、里の方からこんな薄情な家には嫁がせておくわけにはいかないので、離縁してくれと言われ、結局、離縁状を書くはめになったと言う話。
お崎の亭主も瀬戸物に夢中だというので、仲人は亭主が一番大事にしている瀬戸物を落として割ってみろという。もし、亭主がお前の身体を少しでも心配すればよし、瀬戸物のことばかり言っているようなら見込みがないから別れてしまえと言う。
お崎が家に帰ると亭主が夕飯を一緒に食べようと待っている。お崎は頃を見計らって、押入れから瀬戸物を出し、台所でよろけて割ってしまう。すると亭主は、お崎の体のことばかり心配し、瀬戸物のことは一言も言わない。うれし泣きして、
お崎 「あらまあ、嬉しいじゃないか。お前さん、麹町の猿になるかと思ってどれくらい心配したか知れやしないよ。お前さんは唐の学者だよ。ほんとによかった、嬉しいよ」
亭主 「何も泣くことあねえやな」
お崎 「お前さん、そんなにあたしのからだが大事かい」
亭主 「あたりめえだ、お前に怪我されてみねえな、あしたから遊んでいて酒が飲めねえや」
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この演目の枕で、『なんだって、あんなやつと一緒になってンだい?』、そう聞かれたお崎が、『だってさぶいン(寒い)だもん!』と答えています。江戸落語の面白さです。呑兵衛で役立たずだけど、おかみさんが、一緒にいる理由をそう言うのがいいですね。体も心も、温め合うのが夫婦、難しい理由を言わない落語の方が、真実味がこもっていて、実感がありますし、長持ちしそうです。
(NHKの「北風小僧の寒太郎」です)
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