詩人

 

 

秋の夜の会話  草野心平

さむいね
ああさむいね
虫がないてるね
ああ虫がないてるね
もうすぐ土の中だね
土の中は痩せたね
君もずゐぶん痩せたね
どこがこんなに切ないんだらうね
腹だらうかね
腹とつたら死ぬだらうね
死にたくはないね
さむいね
ああ虫がないてるね

福島県いわき市出身の草野心平(1903年〜1988年)が、25才の時に 作詩したものです。週の半ばに、家内と知人宅を訪問し、夕べのひと時を共に過ごしているのですが、秋の夜半の虫の声が、徐々に強くなってきています。やはり秋たけなわと言った感じがしてまいります。昔、鈴虫を友人からいただいたことがありました。とても好い鳴き声がして、一秋の何日かを楽しんだことがあります。

"チンチンチンチロリン"と鳴くのでしょうか。寒くなってきて、痩せてきて、切なくなるほどで、心平青年は死にたくもないのです。人のいろいろな感情を知ってか知らぬか、秋の虫の鳴く声を、ただ、心平は静まって聞いているのです。

この「虫」を読んだ後、草野心平は、「蛙」と「富士山」を取り上げた詩を多く詠んだ詩人でした。スケールの大きな詩を詠んでいます。自分の職業欄に何と書いたらいいのか迷ったら、「無職」と書く代わりに、「詩人」と書き込めたら素晴らしいですね。寺山修司は、自分をそう呼んでもらうのを好んだそうです。

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