卵焼きとボタン

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2014年11月の「写作(作文のことです)」の授業の時に、「三行ラブレター」を書いてもらいました。「日本語文章能力検定協会」が、毎年募集して、多数の応募作文の中から優秀賞を決め、表彰してきています。私も、日本語学科の必修授業の中で、このテーマを提示して、八年ほどの在職の間に、書いてもらっていました。その中から、2014年度の四編をご紹介しましょう。

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父さんが作れる たった一つの料理
中国料理の特に卵焼き
どんな料理よりも優しい味 (お父さんへ)

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もらった命、もらったやさしさ
きつく叱られた幼き日々も 贈り物だったんだ
本当にありがとう (お母さんへ)

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お天気予報
最初にあなたの住む街を見ます
今日はあたたかくなりそうですね (友だちへ)

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午前中ずっと私の歩く道路に沿って探していて
ただ、私の服から落ちたボタンのためだったと知って
涙が止まらなかった  おばあちゃん ありがとう (おばあちゃんへ)

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二年間学んできた日本語、習得した語彙を使って、必死に作文に取り組む学生の姿が、まだ昨日のことの様に思い出されるのです。以前は、農村部から、都会に出て来て大学に進学するというのは、大変な親御さんたちの経済的な負担でした。そうですから、学ぼうとする必死さが伝わって来たのです。あの頃の教え子のみなさんは、もうお父さんやお母さんになっているでしょうか。

『子をもって知る親の恩』、名のないお父さんだけど、たった一人のお父さんの作る卵焼き、美味しかったことでしょう。お腹を痛めて産んでくれたお母さんに、叱ってくれた深い感謝が現れています。堅く結ばれた友人は、他の街で学んでいて、今日の天気を心配するほどの篤い友情で結ばれていたのでしょう。当時はボタン一つが貴重だったんでしょう。娘の歩いた道を辿って、見つけ出してくれたお婆ちゃんへの思いは、どれほどだったのでしょうか。

あの作文を書いた頃には比べることができないほど、大人になるにつれて、感謝がいよいよ募るのではないでしょうか。

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