肝(きも)を据える


  第五福竜丸が、ビキニ環礁で被爆したというニュースがあったのは、小学生の頃でした(1954年3月1日)。広島と長崎で被爆した我が国にとっては、悪夢を呼び覚ます一大事件でした。小学生の私でしたが、驚いて新聞を見、ラジオを聞いたことを昨日のことのように覚えています。被爆された船長の藤山愛一郎さんの名前まで思い出せますが。次男が、この事件を知っていて、質問してきたのには驚かされたのですが。

  地震と津波で被害を受けた福島原発の事故は、精一杯に収集作業が行われていますが、昨日は、3人の東電職員が被爆されたと伝えていました。また飛散した放射能のヨウ素が農産物や水道水に混入されているとして、福島県近県や首都圏で大騒ぎになっています。確かに怖いことに違いないのですが、過剰反応を見せているのではないでしょうか。福島産ほうれん草を売ることも食べることも危険、金町浄水場から配水されている地域の水道水を赤ちゃんに飲むことを禁じる勧告も、『うーん?』と思ったのは私だけでしょうか。昨日の段階では、汚染濃度が危険値を遙かに超えていると伝えていましたが。こういうのを、「一喜一憂」というのでしょうか。こんどは、千葉産の農産物が、やり玉に挙げられています。右に左に揺さぶられて、不安が増し、恐怖心を増幅していき、よい結果にならないのですが。もちろん情報を出し惜しみしたり、秘匿することはいけませんが、冷静に判断して、もう少しのんびり、どっしりと肝を据えてもいいのではないでしょうか。福島のほうれん草の生産者の方が、テレビでインタヴューされていたときの焦燥した表情を忘れられません。

  「武士の三忘」という言葉があります。戦場に遣わされる武士には、3つの忘れなければ任務を遂行することができない大事があるのだそうです。1つは《家》、2つは《妻子》、3つは《わが身》です。原発で働かれる東電職員は、職務上の当然な業務以上に、この放射能に冒されるという危険を覚えながら、執務しているのは、まさに「武士の三忘」の決意に違いありません。30年先に、生きていられる保証など1つとしてない私たちが、将来を恐れるあまりに、マリオネットのように情報に踊らされて、危機の先取りをしているのはいただけません。

  いつでしたか、「かいわれ大根」が悪人にされたときに、時の厚生大臣が、苦い顔をしながら食べている様子をテレビで放映していました。あの方が、今の総理大臣ですが、ぜひ、首相会見の折に、おひたしにしたほうれん草を、金町の浄水場でくんだ水でわかしたお茶でも飲みながら、明るい表情で食べてほしいと思います。首都圏の需要のための農産品の生産に従事されるみなさんを安心させていただきたいのですが。言い訳よりも、はるかに説得力に溢れて、国民の思いを安心な領域に連れて行くことができますが。危機の中だからこそ、厳粛な事態だからこそ、心配を増幅してしまわないような配慮がほしいものです。

(写真は、社会福祉法人・南東北福祉事業団による、福島県会津若松市「鶴ヶ城」で、一刻も早い冬から春への変化を願います)

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